2026/7/11 05:00
セミナーレポート

株式会社こころみは、顧客サポートAIの成果を導入後の運用で高める方法を伝えるため、株式会社miiboと共同でセミナーを開催しました。本レポートは、顧客サポートAIをすでに導入した担当者と、これから導入を検討する担当者に向けて書いています。レポートの目的は、当日語られた運用改善の勘所を、参加できなかった方にも共有することです。
本セミナーは、顧客サポートAIの成果が導入ではなく導入後の育成で決まると示しました。前半では、miiboの功刀雅士氏が市場調査の結果と新プロダクト「miibo for customer support」を紹介しました。後半では、こころみの森山裕之氏が、顧客サポートAIを「手の掛かる新人オペレーター」と捉える運用の考え方を解説しました。最後のQ&Aでは、有人対応の要否や専任担当者の必要性について、参加者から具体的な質問が寄せられました。
本セミナーは、2026年7月9日に開催した無料オンラインセミナーです。「AIエージェント構築実践セミナー」の第26弾として、こころみとmiiboが共同で企画しました。
開催情報は次のとおりです。日時は2026年7月9日(木)12:00〜13:00、会場はZoomによるオンライン、参加費は無料でした。60分の中で、プロダクト紹介に20分、運用解説に25分、Q&Aに10分を配分しました。
対象は、顧客サポートAIの運用に課題を抱える方としました。具体的には、導入済みだが期待した効果が出ていない方、有人対応の内容をAI改善に活かす仕組みを作りたい方、ナレッジ更新が属人化している方、これから導入を検討している方です。いずれも「導入の次」に関心を持つ層である点が共通しています。
当日の内容は、アーカイブ動画としてYouTubeで公開しています。本レポートで関心を持たれた方は、動画で当日の解説とデモをご覧いただけます。
▶ https://www.youtube.com/watch?v=q9DC6X4v0GM
本セミナーには、プラットフォーム提供者と運用支援者という異なる立場の2名が登壇しました。前半をmiiboの功刀氏、後半をこころみの森山氏が担当しました。
前半を担当した功刀雅士氏は、株式会社miiboの代表取締役です。功刀氏は会話型AIの研究開発に長く従事し、2023年4月にmiiboを設立しました。当日は、市場調査の結果と、2026年6月にリリースした「miibo for customer support」を紹介しました。
後半を担当した森山裕之氏は、株式会社こころみの取締役CCOです。森山氏はIT出身でありながら、コンタクトセンターのセンター長やカスタマーサポートチームの立ち上げを経験してきました。当日は、現場の運用経験にもとづき、顧客サポートAIを成長させる仕組みの作り方を解説しました。
両氏が共通して取り上げた発表物が、新プロダクト「miibo for customer support」です。このプロダクトは、使うほど賢くなる自律進化型の顧客サポートAIとして設計されています。功刀氏は機能とコンセプトを、森山氏は現場での活かし方を、それぞれの視点から説明しました。
本セミナーの見どころは、3つの流れで構成されました。第1に、調査データが示す「導入後の壁」です。第2に、その壁を越えるためのプロダクト「miibo for customer support」です。第3に、現場でAIを育てる運用の考え方です。
功刀氏は、2026年5月に実施した市場調査から、顧客サポートAIの導入後の実態を報告しました。調査はカスタマーサポート業務の担当者を対象とし、スクリーニング母数は2万人におよびます。
調査結果は、AI活用がまだ本格化していない現状を示しました。AIを本番導入している割合は13.3%にとどまります。PoCや試験運用を含む導入・検証経験者は33.0%、検討中は30.7%でした。会話型AIの一丁目一番地とされる問い合わせ対応でも、本番稼働の割合は限定的です。
導入した企業でも、十分な効果実感は広がっていませんでした。効果を実感した企業は7割にのぼる一方、「十分に実感できた」と答えた企業はどの項目でも3割に届きません。評価は立場によっても分かれ、現場に近い担当者ほど厳しくなる傾向が出ました。導入後も6割超の企業で、AI回答の確認・修正業務が日常業務として残っています。
成果の差は、日々の運用行動の差として現れていました。高成果群は、エスカレーション率の可視化、不適切な回答の管理、解決できなかった理由の分析、ナレッジへの反映、意思決定層の関与のすべてで、低成果群を大きく上回ります。功刀氏はここから、効果実感を高める3つの習慣を提示しました。月1回以上のナレッジ更新、有人対応内容のAI反映、解決率の可視化です。
ただし、この3つの習慣は人手で回すと大きな負担を生みます。ナレッジ更新では、どこを直すべきかを探す運用コストがかかります。有人対応の反映では、問い合わせに追われるオペレーターに追加の作業が発生します。解決率の可視化では、AIの応答が課題を解決できたかを精査する時間が必要です。工数削減のために導入したAIが、逆に工数を生むというジレンマがここにあります。
功刀氏は、この運用負担を解消するプロダクトとして「miibo for customer support」を紹介しました。本プロダクトは、ナレッジ管理・リスク管理・業務フィットという3つの罠を越えることを狙いとしています。
3つの罠は、それぞれ現場の課題に対応します。ナレッジ管理の罠は、ナレッジが陳腐化していく課題です。リスク管理の罠は、自動応答のリスクを人手で確認し続ける課題です。業務フィットの罠は、既存の業務プロセスから離れた運用が追加で発生する課題です。
本プロダクトは、通常のサポート業務がそのまま精度改善につながる流れを備えています。まず、問い合わせの対応ログを有人対応とAI完結に分類します。次に、AIがログを分析し、ハルシネーションの有無と課題解決の可否を判定します。さらに、分析結果からナレッジやプロンプトの改善案を提示します。最後に、人がレビューして承認すると、内容がエージェントに反映されます。
デモでは、この改善サイクルが実際の画面で示されました。エージェント設定ではプロンプトや外部API連携、コンテンツフィルターを設定できます。ナレッジデータストアには、URL、ファイル、NotionやGoogle Driveからデータを取り込めます。AIが答えられなかった質問は有人対応にエスカレーションされ、その内容が「AI提案」としてナレッジに上がってきます。担当者が提案を反映すると、次回から同じ質問にAIが答えられるようになります。
アナリティクス画面では、育成の成果を数値で確認できます。AI解決率、満足度、ハルシネーションの検知結果を追えます。ベンチマーク機能を使えば、モデルごとの応答品質をオペレーターの応答と比較できます。功刀氏は、GPT-5とClaude Sonnetの比較も可能だと説明しました。
管理画面には、設定と分析を代行するAIアシスタントも常駐しています。このアシスタントは、改善ポイントやナレッジ追加の示唆を返すだけでなく、プロダクトの設定そのものも実行します。MCP連携を使えば、手元のClaudeやChatGPTからワークスペースを操作できます。
森山氏は、顧客サポートAIを「手の掛かる新人オペレーターの配属」になぞらえて解説しました。この比喩は、AIが導入した時点で完成しない事実を端的に表しています。
新人オペレーターの育成には、スーパーバイザー(SV)の工数がかかります。SVは応対をモニタリングし、誤った回答をフィードバックします。言い方やトーンについても助言します。マニュアルにない個別ケースへの対応は、チーム全体に共有します。森山氏は、AIにも同じチェックとアドバイスが必要だと指摘しました。
しかし、日々の対応に追われる現場には、AIを育てる余裕がありません。その結果、ナレッジ更新は属人化し、やがて形骸化します。生成AIには自動で賢くなる機能がないため、AIは最初の性能のまま頭打ちになります。
運用が回らない原因は、2つのつまずきポイントに集約されます。1つは、個別対応が対応そのもので終わり、次回以降の改善に反映されないことです。もう1つは、AI解決率が可視化されず、成長の度合いを把握できないことです。森山氏は、有人対応の分析、ナレッジ更新、成果の可視化という改善ループを回すことが解決策だと述べました。
miibo for customer supportは、このSVの仕事を機能で置き換えます。モニタリングと応対判定はハルシネーション分析と課題解決判定が担います。個別ケースの共有はナレッジの自動提案が担います。言い回しの調整はプロンプトとAIアシスタントが支援します。育成状況の把握はAI解決率の自動レポートが担います。森山氏は、これにより従来の育成工数を半分以下に圧縮できる可能性を示しました。
森山氏は、さらに一歩進んだ工夫として、ベテランの知をAIに取り込む方法を提案しました。マニュアルに載らない知識こそ、センター全体のパフォーマンスを左右するためです。
マニュアル外の知識は、特定の担当者の頭の中にしか存在しません。お客様を怒らせてしまう言い方を避ける勘所が、その一例です。稀にしか発生しないケースへの対応手順も、その一例です。担当者が退職すれば、これらの知識は失われます。
こころみは、この暗黙知を引き出す「暗黙知の形式化インタビュー」を提供しています。まず、ベテランへのインタビューで頭の中の知識を言語化します。次に、AIが取り込みやすい形に構造化します。最後に、ナレッジデータストアへ搭載します。こころみは、高齢者向け会話サービスで培った「話を聴く技術」をこの工程に活かしています。
Q&Aでは、運用の現実味に踏み込んだ質問が3件寄せられました。いずれも、導入後の体制設計に関わる内容です。
1件目は、有人チャット対応の要否に関する質問でした。「有人チャット対応はなしにもできますか。AIの応対だけにしたいです」という声に対し、功刀氏は設定でオフにできると回答しました。加えて、チケットだけを起票して後からメールで返す非同期型の運用も選べると補足しました。
2件目は、改善担当者の体制に関する質問でした。「AIの改善のために専任で人をつけないと回らないでしょうか」という声に対し、功刀氏は専任は不要だと回答しました。ただし、立ち上げ期はサポートプロセスを設計するマネージャーが関与すべきだと付け加えました。森山氏も、専任までは不要だが立ち上げ当初は集中して対応する人が1人いると回しやすいと同意しました。
3件目は、他サービスとの違いに関する質問でした。「miibo for customer supportの主な違いは何ですか」という声に対し、功刀氏は3点を挙げました。ナレッジとプロンプトの自律改善が一気通貫で回ること、AIプロダクト開発ツール由来のエージェント設計で精度を高められること、MCP対応などAIネイティブな設計により人の工数を抑えられることです。
顧客サポートAIの成果は、導入ではなく導入後の運用で決まります。調査データは、月1回以上のナレッジ更新、有人対応内容のAI反映、解決率の可視化という3つの習慣が効果実感を高めると示しました。miibo for customer supportは、この3つの習慣を自律的な改善サイクルとして回します。こころみは、会話設計と暗黙知の形式化の知見を活かし、構築から運用まで伴走します。
当日の解説とプロダクトデモは、アーカイブ動画でご覧いただけます。
会話型AI構築プラットフォームmiiboでのAIエージェント構築実績を多数持ち、miiboの機能と活用方法に精通したライター。企業向けにmiiboの最新機能、実践的な活用事例、AI導入のノウハウについて情報を発信し、業務効率化とDX推進を支援している。
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